5. 集団の態度や意見を探る
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1. 質問紙法によって何がわかるのか
1-1. 質問紙法とはなにか
質問文(質問項目)
質問したい内容を文章にしたもの
あらかじめ一例の質問項目を用意し、これに対して解答をもとめるというデータ収集法
モニター画面や大型プロジェクターでの提示も、質問紙法と考えてよい
調査=質問紙法というわけではない
社会学の学問分野でも質問紙法を行う
1-2. 社会調査と心理尺度による調査
社会調査
「一定の社会または社会集団の社会事象に関する特徴を記述(および説明)するために、主として現地調査によってデータを直接蒐集し、処理・分析する過程である」(原・海野, 2004) 「その全過程が客観的方法に貫かれている」という条件を付与
ここで集団というのは、社会的な概念としての集団
たとえば、性別という変数は女性と男性という2つの属性(attribute)あるいはあk手ゴリーからなるとみなす
したがって、集団の態度や価値観は、性別変数によってどう異なるのかという点が関心の対象となる
社会的態度を調べる尺度として、古くから知られている
ボガーダスの社会的距離尺度、Babbile(2001)に紹介がある
事前に質問項目への態度の強弱を判定してもらい、その結果に基づいて項目に重みづけをする手続きを踏む
最近では各質問に対して、「非常に賛成」〜「非常に反対」といった選択肢から択一回答を求める方法が多い
SD法では、正反対の語を選んで左端と右端に置いて、その間を等間隔とみなして評定を求める
SD法では調べたい対象(概念)について尺度上への回答を求めるのであり、心理学的なイメージ測定でよく用いられる
質問紙の使い方には大きく2つ
たとえば、事実婚やボランティア活動等のような社会的な出来事について、人々の意見や態度を把握し記述する場合
「賛成」「反対」のような選択肢に回答を求める形式が多く、社会学や政治学の領域でいう社会調査でもよく見られる
社会調査では、分析の視点が性別、居住地域、年齢、文化、時代さ、民族などによる属性集団の特徴や実態を描き出す方に力点が置かれる
回答それぞれに対して何%の人が選択したかを集計する
2つの質問への回答を交差させて回答傾向を見ること
回答者への加重負担になるので多くの質問項目を望めない場合には、このような単一尺度(単一質問項目)を使うことがある
心理尺度を使って個人の意識や行動を明らかにしたり、心理的変数同士の関係を調べようとするもの
一連の質問項目セット
心理学では、これら心理尺度を使って個人差を明らかにしようとする傾向が強い
心理尺度による研究こそが心理学の質問紙法の特徴であるともいえる
ただ一方で、そのデータが現実の日常行動にどう反映されているのかに関してはたしかな保証がないともいわれる
2. 質問紙法による研究の流れ
2-1. 一般的な流れ
調査目的の設定
目的は研究題目に表現される
「夫婦の関係満足度および生活充実感における規定因の検討」
実際、この論文では先行研究を踏まえて、新たに性別役割観・収入・子の年齢などの要因と、性別役割分業の投入および成果に関する認知要因との関係を調べている
質問項目の作成
目的に合致する適切な尺度があれば、それを使用する
この論文では、たとえば夫婦の関係満足度に関しては、既に公表された柏木・平山(2003)の尺度(7件法)の単一尺度に回答を求めている 「配偶者との関係にどのくらい満足しているか」であり、「非常に肥満である(1点)」から「非常に満足している(7点)」
たとえば自己投入尺度では、家事・子育て・収入を得る仕事について、自分が配偶者に対して貢献した程度を「まったく貢献していない(1点)」から「非常に貢献している(7点)」の7件法を使っている
調査対象の決定、調査の実施とデータ収集
この研究では、ある県の事業所に就労する既婚者とその配偶者1,000組を対象とした調査を実施している
この研究の場合、回収率は43.1%と報告されている 当然のながら、調査の協力を拒否される場合もある
最終的に得られたデータがどんな意見の層を反映しているのかを確かめる方法は困難であるが、一般論として回収率の高さは重要
結果の統計処理
結果の分析は研究目的に沿ってなされる
この研究では、まずは各尺度の得点を手がかりにして、夫の平均値と妻の平均値を比較している
一例をあげると自己投入尺度に関しては、家事と子育てでは妻の得点が高く、収入を得る仕事では逆に夫の得点が高くなっていることを見出している
報告書の作成
誰に対して公表するかによって内容や書き方が大きく異なる
この論文は日本社会心理学会の学会誌「社会心理学研究」に掲載されている
主な読者は社会心理学者であるから、基礎的な専門用語や標準的な統計処理の説明は簡略化されていて、内容は要約、問題と目的、方法、結果考察、引用文献の順に手際よく実証的にまとめられる
誤解を呼ぶ修辞的、文学的な文章表現は回避される
これがもっと一般的な読者向けに公表されるのであれば、おそらくは平均値や相関係数の表の多くは簡略化され、重回帰分析のような統計処理の結果は平坦な表現に変えられるだろう
2-2. 質問紙調査に当たって
データ収集法
回答者自身が回答する方法
調査者が回答者から聴き取りを記録する方法
データ収集方法
近年よく使われる方法として、電話を用いたアンケートがある
コンピュータで無作為に発生させた番号に電話をかける
時間帯などで調査対象が偏ることは明白
いずれも時間や経費を考慮すると一長一短で、また、いくら抽出が厳密になされたとしても、回収率が低ければ適切性を欠く
2-3. 質問形式
得られた回答の分析が難しいが他方で調査研究者の予期し得ない貴重な意見や考えが得られることがある点で優れている
たとえば、水間(2004)では「次に、あなたはどういう人間でありたいと思っているのかを考えてみてください。あなたが『自分はもっとこういう人間になりたい』という理想の自分について、下に自由に書いてください」として、自由記述を求めている 集計時の客観性が保証されている質問形式
よく使われるもの
e.g. 次に挙げる動物のうちで、あなたが一番好きな動物はどれですか?
e.g. 次に挙げる動物のうちで、あなたの好きな動物に丸印をつけてください(いくつでも)
e.g. 巨大になるペットを家で飼うことについて、次のような意見があります。あなたはどちらの意見に賛成ですか?
e.g. あなは旅行が好きですか、嫌いですか。次の選択肢の中で、気持ちに一番近い所の番号をお答えください。
3. 質問紙法から得られること、得られないこと
3-1. GIGO
「クズを入れてもクズしか出てこない」
いくら高度な統計解析法を用いても、手元のデータに偏りがあったり、信頼性や妥当性の低い心理尺度であったりしては得られた結果は貧弱、それどころか、害でさえある
偏りのないよい標本抽出による調査、信頼性があり妥当性をも備えたよい尺度、目的にあった統計処理がなされれば、質問紙法はすばらしい威力を発揮する 3-2. どんなことがわかるのか
研究目的としての心理尺度の使い方は2つ
特定の個人の心理的傾向の診断
ある標準化された心理尺度に回答することによって、その個人が集団の中でどのような相違大敵一にいるのかを調べることができる
ある人達の心理的特徴を把握すること
いま、一人暮らしの青年と自宅で家族と暮らす青年とでは孤独感の強さが違うかどうかを調べたいとする
この場合には、孤独感尺度を実施して得られた2群の平均値を比較したり、他の変数との関係を調べることができる
質問紙法を用いて多くの心理尺度を利用すれば、心理尺度観の相関関係を検討することができる
さらには、心理尺度などでとらえる変数が別の変数にどのように影響しているかを推論することもできる
e.g. 「携帯メールの効用認知」―「社会的ネットワークの変化」―「孤独感の変化」という心理的な理論モデルに従って調査を実施し、それを構造分析モデルによるパス解析技法によって検討 https://gyazo.com/c4f138bed330cc7808530cf6afbf1f81
孤独感の生起過程がこのようなモデルで示され、データに対するこのモデルのあてはまりが有効であることが示されている
3. 質問紙法のまとめ
回答者自身が気づかない内面を質問項目に含めることで回答者の意見や考えを幅広く捉えることができる
多人数に同時に実施できる
費用が安く済む
実験の条件を斉一にできる
一度に多くの要因を考慮してデータ収集ができる